dramaticcreate (2014-06-26)
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噂にたがわぬ非常に折り目正しいお話でございました。折り目正しすぎてそっち方向に突きぬけて(?)います。
あらすじは以下の通り(
wikipediaから引用)
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《ノーヴァス・アイテル》は、かつて人間が神に見捨てられ、世界が混沌の濁流に飲み込まれた時、聖女イレーヌが神に許しを請い、それを受けいれた神によって空に浮かせられた都市である。以後数百年、代々引き継がれた聖女イレーヌの力によって、この浮遊都市は守られてきた。《ノーヴァス・アイテル》には貴族が住む上層と、民衆が住む下層の2つの区域があった。
10数年前、《終わりの夕焼け(トラジェディア)》と呼ばれる光が天蓋を覆い、《ノーヴァス・アイテル》の下層の一部が地盤沈下した。後に《大崩落(グラン・フォルテ)》と呼ばれるこの悲劇では多くの人々が死に、生き残った人々の生活も激変させた。地盤沈下した区域は後に「牢獄」と呼ばれるようになる。牢獄の周囲は断崖絶壁となり、他の層とは容易に行き来ができなくなった。
国が《特別被災地区》として見放し、無秩序状態に陥った牢獄で、ボルツ・グラードは《不蝕金鎖》(ふしょくきんさ)と呼ばれる組織を作り、下層との物資をやり取りする仕組みを作って物流を独占した。そして手をこまねくだけの取り残された役人に代わって規律を作り、復興に尽力することによって、牢獄の事実上トップの組織となった。今でも《不蝕金鎖》は牢獄を支えている。
かつて《不触金鎖》で暗殺者として働いていたカイムは、今は娼館街の何でも屋として生きている。ある日、ボルツの息子で《不触金鎖》の頭であるジークフリードから依頼を受け、上層から売られた女性たちを連れて牢獄へ向かう馬車を迎えに行ったが、そこで見たのは女性たちの惨殺死体であった。その中で1人だけ生きていたのは、背中に羽が生える羽化病に罹患した少女ユースティアであった。
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この長いあらすじでピンときたら素直にプレイしていいかもです。この「設定」が存分に生かされたストーリーが楽しめます。
ネタバレ箇所もありますので、感想は続きから。
●ストーリー構成結論ありきで作ったのか、ストーリー構成がそのままゲームデザインというか選択肢の分岐そのままとなっており、非常に折り目正しくきっちりした構成に、逆に度胆を抜かれました。ゲームって往々にして「たたみ切れなかった」とか「遊びを残しておきました」って部分を用意もしくは漏れが生じてしまうしそれが普通かなと思っていたんですが、そういうのを極力潰して綺麗に揃えましたーーーーっていう、「ADV屋ですからね、うちは」っていうオーガストさんの美しいドヤ顔が浮かびます。すみませんがオーガスト作品は初めてです!
簡単に言うと宙に浮かんだ都市に明確な階級社会が形成され、その最下層「牢獄」と呼ばれる治安も生活水準も悪い集落(?)で、なんでも屋(殺しもするよ)として働いていた主人公カイムが羽の生えた少女を拾ってその子がこの都市の命運や秘密を握っているようだ、ということを階級社会の階段を1つ1つ上りながら明らかにしていくゲームです。
階級社会は牢獄、下層、上層と別れており、上に上がるにつれ金と権力が集約されていく。各々の社会の要人がいわゆるヒロインに位置し、彼女らと言葉を交わし時には反発しなだめすかしわかってもらったり好きになってもらうことで上層への切符を手に入れていくという構造なので、なんかすごいそれだけでも綺麗な構造だなあとゲームデザイン美を感じた。
●キャラを殺さず立場と役割を演じきらせる牢獄から上層まで色んな立場・役割のはっきりしたキャラクタが登場するのですが、それらが立場と役割の枠をはみださない域で生き生きと自己の主張を通してドラマを作り上げているのがすごい。結論ありきのADVゲームでは役割のためにキャラの特性を犠牲にして物語をたたむ事もたまにはあると思うんですが、そういうのがメインヒロイン以外(ま、それもやむ負えないと思う範囲でした)見られなかった。役割・立場・キャラを上手く合致させていますので、キャラがぶれないんですよね。ぶれる時といえば恋愛した時なんですが、このゲーム恋愛はほぼおまけです。なんてたって各々の社会問題課題をなんとか収束させた後に「この子と生きるか、先に進むか」という選択肢が現れ、「この子と生きる」ことにすると、告白された主人公が「実は俺もお前が好きだった」となり、アエエエエエエエエエエエそうなの!?とプレイヤーが動揺します(笑)ま、動揺してもその後はそれなりに話と恋愛を着地させ、女の子は幸せになるので「あ、うん良かったね。これもいいよね」となるしかない(笑)ですが、道中で色んな子と仲良くなると状況は悪化していくのに(崩落がはじまる)のに立ち止まることになるのでは……って思ってしまい、「これでいいのか?」って気持ちにもさせられる。ですので個別EDを順番通りに見つつ、トゥルーEDを見るってのがやっぱり王道なプレイの仕方で良いのかなと。ちなみに私は牢獄の崩落が始まったあとに個別EDを回収してたので「俺何やってんねん」感がすごかったです。
●キャラ感想
・カイム(主人公)
たまにちらちら見える外見で、「なんか咎狗のアキラっぽい恰好だな」と思いました。ふわふわファージャケをきた男は皆アキラかよ!って怒られそうですが。
殺しもやるくらい倫理観の崩れる経験を積みながら、誰からも「優しい」と評される主人公。ほんと優しいです。優しいからいろんな人と出会って信頼されやがては都市の存続のため心を殺すまでいくのに、そこに来た時にはもう「色んな人の事情を知ってしまったがために身動きがとれない」状態なんですよね。実に主人公らしいと思いました。
・ジーク
攻略対象じゃないけど、やっぱりジークは語らないと……。声が三木眞で、いかにも「アニキ!頼りにしてまっせ!」という演技が、懐かしくも新しく心をがちっと掴まれました。腐食金鎖のボスとして、カイムの相棒として、時にはおちゃめに時には厳しく、口八丁で真面目な人間を担ぎそれでも役割を全うする姿に惚れるなっていうほうが無理ですって!アペンドではかなりギャグを担当してくれるので、それも素敵です。へらっと笑った立ち絵が好き。
・ルキウス
こちらも攻略対象じゃありませんが。
大多数の人が生きるため少数を見殺しにする、徹底したやり方になんか切継とかアーチャーとか思い出してしまう方は多いのでは。ルキウスは自分の生い立ちから生き別れの弟のカイムに親愛の情を求めつつ最期は自分のやり方を通すのが格好いい。トゥルーEDで残しておくのも難しいのかしっかり違和感なく死ぬのもキャラ立ちに買っていますね。
・システィナ
非攻略女性キャラ。なんてったってルキウス様にベタ惚れだからさ!こちらも気の毒な生い立ちからルキウスの願いに身も心も捧ぐと決めた立ち位置からぶれません。こちらも違和感なく最期は人を捨て命を落としてルキウス様を守るのが役割。女性キャラでは一番好きかも。
・ガウ
殺人の才能があったせいかそっちに突き抜けたキャラ。「難しいことはわからない」といいつつギルベルトを揺すったりカイムを翻弄したりと起用かつ頭がいい。しまいには「殺される奴に生きる意味があるのか」なんて哲学的なことを考え彷徨ってるあたり、このゲームに真の悪人はいません。(普通、あたしに殺されるためだよ!とか言ってもおかしくないのに。考えていることが非常に真人間です)
・メルト
こちらもストーリー内での癒し担当としつつも崩落で突然死ぬ、という重要な役割を持っているため非攻略女性キャラ。先代に身請けされ店をやり女の子の面倒を見て…と、「人生における葛藤はある程度済ませた」感。なのでぶれも少ないのでしょうねー。
・フィオネ(攻略対象)
最初の攻略対象ということで話がスロースタート、さくさく進めるのが難しかった。ただ、立場の違いから生じる無理解と齟齬を乗り越える大変さを最初に教えてくれるのも彼女。主人公もですが攻略対象達も今まで知り得なかった自分の社会について真実を知りショックを受けて行くので、恋愛エンドにおける救いも必要ですよね…。
・エリス(攻略対象)
綺麗な声の毒舌医者。「難しいことはわからない」といいながら医者として活躍してるのを見ると自頭良いから事実を受け止めすぎるとマズイのではと思ってしまう。カイムに身請けされたからカイムにもの扱いされたいと言いつつ、恋愛エンドでも突き放してもまともになる転身がすごい。カイムから自立しろといわれ「人が飛べないのと一緒!そういうふうにできているの!」と応えるセリフと「綺麗な決心なんかしなくていい」というセリフが好きです。
・コレット(攻略対象)
信仰強ええーとなった。やっぱり最後の支えは信仰だよねみたいなこと考えてた時期だったので出てきてびっくり。周囲から疑われながらも天使の声について主張しそれが真実と証明されるのが本人の恋愛EDじゃないのがまた皮肉な構造です。
トゥルールートで彼女がジークと共に武装蜂起するシーンが一番鳥肌立ちました。
・ラヴィリア(攻略対象)
恋愛EDへの入り方が一番びっくりしたのがこのキャラ。「お前に惚れてたんだろうな(何故ここまでしてくれるのかと聞いて主人公からの回答)」アエエエー!?みたいな。でもコレットのお姉さん役じゃない幸せがあってもいいよねとも思います。
・リシア(攻略対象)
最初はワガママで奔放な王女様として出てきますがいずれにせよ立派な王となるのがやっぱりすごい。人の変化を非常にコンパクトに見せつけられているような。ただそれが前触れもなくではないのがこの作品の優れたところ。
少女の身ですがとんでもない都市の責任を任され、それゆえに政変の鍵、嫌な言い方すると重要な道具として責務を果たすのがなんとも不憫にも見えるけどそう見ちゃ失礼ですよね。アペンドで子育ての方針に悩んだり恋愛小説の真似事をするのが非常に可愛らしい。
・ユースティア(攻略対象)
タイトルにもなってるメインヒロイン。天使の御子として最期は穢れた下界まで浄化、千切れたカイムの体まで再生、都市を着地…までいくともう人間のままではいられず、言葉を借りるとまど神様みたいな存在になります。
生い立ちがそのままストーリーの根幹に組み込まれてるせいか、感情移入しにくく尖った部分が見えないのがちと残念ですが、なんか風呂敷だたみ係だから仕方ないよね…という気も。彼女を好きになっちゃうと最終的に体が消える、というオチは悲しいものですね。とはいっても助かっても今まで保ってきた因果関係というかパワーバランスまで否定しかねないから律義に消したのかなー。真面目な大人向け作品です。
⚫︎因果関係のしっかりしたシリアスドラマ出てくるキャラにサブも含めて皆、事情があり信念があるためそれが正に働こうが負に働こうが「理由ありますから」と納得させられてしまうお話です。えーこんな酷いことができるなんて!という人にも深い事情が…ってなるのである意味安心、現実もこれくらい同情できる構造ならなーと思いつつ現実じゃないからここまで相互関係しっかりできるんだよ!てなりました。時間はかかり、真面目な作風やシリアスな展開のために疲れますがかなり優れた群像劇として評価が高くなります。
恋愛はおまけです。おそらく。
アペンドで各ED後のイチャイチャとかハーレム(?)とかもありますけれど、面白いのはそれ以外のお話でした。コレットとクローディアのチェスとかヴァリアスの子供が生まれるとか、恋愛以外の部分が面白かった。面白かったと素直にいえるのも、本編内でキャラが役割を大真面目に全うしているから側面が見れるのが嬉しいからだなーとしみじみ思いました。